1月29日マレーシアのナジブ首相も出席しアリババクラウドとのシティブレイン計画の調印式を行った。KL名物の渋滞の緩和を目的とするスマートシティ実行計画である。アリババクラウドにとって重要な海外初のスマートシティ導入事例となる。
1月29日アリババクラウドはMDEC(Malaysia Digital Economy Corporation)とクアラルンプールのシティブレイン計画に調印
1月29日アリババクラウドCEOである胡晓明(フーシャオミン/huxiaoming)は、クアラルンプールを訪問し、クアラルンプールをスマートシティ化するCITY BRAIN計画を発表し、即日マレーシアのナジブ首相などを交え調印式を行った。
この計画によると、クアラルンプールの281の主要交差点信号に関して、クラウド、ビッグデータ、人工知能などの活用で、交通網の効率化を促進するという。交通量を計算した上での信号切り替え、緊急車両などの迅速な走行、交通事故の検出などを導入し、クアラルンプールでは慢性的に発生する渋滞を緩和することに挑戦するという。
アリババクラウドCEO胡晓明(huxiaoming)によれば、既にシティブレイン計画は、2016年9月にアリババの本拠地である杭州で最初に導入され成功をおさめ、現在は蘇州、衢州、天津、マカオなど中国の7つの都市で展開されているサービスだという。今回のクアラルンプールは、アリババクラウドが導入する初めての海外事例となり、東南アジア名物の渋滞を緩和するための最初の試みになるという。
ちなみに、杭州では2016年9月からこうした仕組みが導入されている。導入前に渋滞の激しい中国国内都市4位であった杭州は、現在はランク外となり渋滞が緩和されている。
マレーシアは、アリババと非常に深い関係を構築しつつある。大前研一氏からジャック・マーへ
MDEC( Malaysia Digital Economy Corporation Sdn. Bhd. )というのは、クアラルンプール国際空港からほど近いIT企業が集積するサイバージャヤの一角にある。1996年に設立されマレーシア政府が100%株式を所有し、マレーシアのデジタル経済化を推進するための重要な役割を担っているいわゆる国の機関である。
実は、マレーシアとアリババの関係はこの数年で急速に緊密なものとなっている。
「Vision20」というプラン掲げ2020年までに先進国入りを目指すマレーシアは、IT化を促進するため2016年11月アリババの創業者であるジャック・マー氏をマレーシア政府顧問(デジタル経済担当)に依頼している。
2017年11月には、eWTP=Electronic World Trade Platformという世界中を対象とする電子商取引プラットフォームをスタートさせ、この調印式でもマレーシアのナジブ首相とアリババのジャック・マーが共に式典に参加し良好な関係をアピールしている。アリババは、2016年4月に東南アジアで最大手EコマースプラットホームであるLAZADAを10億ドルで買収するなどその影響力を強めている。
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1981年からマレーシアの首相であるマハティールが、ルックイースト政策を掲げ日本から多くを学ぼうとしていたが、今や中国から多くを学ぼうとしているのかもしれない。マハティール政権時は、日本を代表するコンサルタントである大前研一氏がマレーシアの政府顧問を務めていたが今やジャック・マーがその地位に就任しているのも、時代の移り変わりを象徴している。
eWTP参考記事:アントフィナンシャルが2017年と噂されていた上場計画を再び延期か?クアラルンプール滞在中のジャック・マーが上場延期を示唆
クアラルンプールのブレインシティ計画とは?
調印式に参加したアリババクラウドCEO胡晓明は、クアラルンプールはアリババクラウドが今後海外展開する上で、非常に大事な最初のステップになると述べている。今回は、アリババクラウドがクアラルンプールで実行するブレインシティは主に以下の3つである。
1、 マレーシアの首都圏にある主要な信号281をクラウドシステムと連動させることによって、交通状況に合わせた迅速な信号の変更を行い渋滞の緩和を実現する。
2、 救急車、警察車両などの緊急車両が通行する際に、迅速な信号調整を行いその誘導を行い、それを周辺に影響が少ないように実現する。
3、 設置された道路カメラを利用し、迅速に交通事故やトラブル車両を発見し信号調整を行う。当事者自らが、警察や救急車両の手配などを行う前にシステム的な対応で関係所管が迅速に対応できるような仕組みを構築する。
MDEC( Malaysia Digital Economy Corporation)はどうしてアリババをパートナーに選定したのか?
マレーシア側は、どうしてアマゾンのAWSやマイクロソフトのAzureでなくアリババクラウドを活用することを決断したのであろうか?MDEC側のコメントを引用してみたい。
1、2017年3月にマレーシア政府は、アリババとEWTP (eWTP=Electronic World Trade Platform)分野での提携をスタートさせており、アリババと信頼関係が既に構築されている。EWPTはマレーシアのデジタル化を十分にサポートしており、マレーシアの中小企業が世界進出することを手助けしている。
*EWTPは、いわゆる電子商取引のプラットホーム
2、アリババは、マレーシア進出に際して採算重視でなく、我々を採算ど返しでサポートする意思がある。ブレインシティは大変長いプログラムであり、最初から商業化をすることは困難なプロジェクトである。当初は、膨大な投資を必要とし採算が取れないデータセンター設立や、人材育成に取り組み姿勢が必要でありアリババにはそれがある。
3、アリババクラウドのビッグデータオープンプラットホームである天池プラットホームは、既に77カ国で活用され信用がある。このプラットホームを活用し人材育成を行い2020年までにマレーシアで2万人のビッグデータを活用するデータサイエンティスト人材を育成することを望んでいる。
どうやら、アリババクラウドは、既に建設した第1データセンターの他にも第二のデータセンターを建設する計画もあるようで、クアラルンプールへの進出はかなり本気度が高いようだ。
最後に胡晓明の印象的なコメントを引用しておきたい。「アリババクラウドは、中国政府が推し進める「一帯一路」戦略に合わせ、その線状に合わせた国で技術提供を行っていく。」一帯一路の地図を照らし合わせてみると、最初にクアラルンプールが選定されたのは納得できる話である。
先に、中国政府が選定した国策4大プラットホーム発展計画においてアリババがスマートシティプラットホームを担当する話も重ね合わせて見るとなんとなく未来予想図が見えてくる話である。
参考記事:中国科学技術部が次世代4大人工知能プラットホーム発展計画を策定、その一翼を担うアイフライテック(科大訊飛/iFLYTEK)とは!
Glotechtrends(グローバルテクノロジートレンド)としては、今後も中国企業の海外進出の動向を注視していく予定である。