無人コンビニの話題が世界を駆け巡っている。GlotechtrendsでもAmazon GO, タオカフェ、BINGO BOX, WELL GOなどを既に取り上げ最先端に技術をレポートしている。今回は、無人コンビニの防犯システムについてその最前線をレポートしたい。
BINGO BOXで盗難事件が発生。WeChatはすぐに犯人を特定し警告文を送付。支払いに応じるかブラックリスト行きか。
実は、中国の無人コンビニでは不思議なほど盗難事例の報告が少ない。無人コンビニで監視する人が誰もいないのに、どうして盗難が起きないのかだろうか。先日、レアケースであるがBINGO BOXで盗難事件が発生した。その盗難事件を分析すると、どうして中国の無人コンビニで盗難が少ないのか、その謎が解明できた。
BINGO BOXは上海を中心に多店舗展開する無人コンビニだ。詳細は以前GlotechTrendsでもレポートしたので再度目をお通しいただければ幸いである。簡単に店舗について記載すると、店舗は常時施錠されているコンテナ型の店舗で、入り口で専用アプリでID認証することにより入店可能となる。この店舗スタイルを模倣したコンビニが今現在の無人コンビニの主流となっている。
参考記事:【無人コンビニ時代の到来】第2回 世界中で技術競争 BINGOBOX/中国編
中国でまた新しい無人コンビニが誕生した、「Well GO」RFID技術の最先端技術を感じる店舗だ|深セン
【無人コンビニ時代の到来】第1回 世界中で技術競争 Amazon / Alibaba / Take go
WeChatは入店時に既に犯人のIDを特定していた。他人のIDを使い偽装入店をしたとしても、別のテクノロジーが人物を特定している。
BINGO BOXのCEOである陳子林氏は、BINGO BOXのシステムでは世界初の特許を含め16件の防犯システムが張り巡らされていると言う。入り口の認証システム、商品に関する画像認証システム、退出時に持ち出す商品が決済されているかどうかを判定するセンサー、無死角360°カメラなどを含め店内は多数のセンサーが配備されていると言う。
来店者はID認証して入店するので個人を特定され悪さが出来ない仕組みが前提にある。しかし、悪意を持った人はこう考えるかもしれない。入り口でID認証されているわけだから、他人のIDで入店すれば、他人に盗難の責任を押し付けることが出来る便利な責任転換ツールだと。
しかし、BINGO BOXの防犯システムはこんな邪な思考も考慮して設計されている。万が一、泥棒が他人のIDを使い成りすまし入店をしたとしても、認証システムなどが入店した人物とID認証した人物が一致していないことを感知し、店内に不特定の不審者が入店したと言うアラームを出す。この警告が出ると通常にも増して、この人物の動きにフォーカスして洞察することになり、その人物の動き、あるいは他のデータベースと照合しこの人物の本当の名前は誰なのかと言うのを探知するシステムがバックヤードで稼働する。
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そして、この人物が商品を支払いせずに退店するとすると、すぐに特定されたこの人物の本当のWechatアカウントへ警告文が届き、持ち出した商品の支払いに応じるか、あるいはブラックリストに掲載し公安に連絡を取るかの選択を迫ることになる。支払いに応じない場合は、WeChatの今後の使用停止を含めて検討し、加えて写真などの盗難証拠とともに警察へ通報される。泥棒は全てセンサーやカメラで証拠を押さえられているわけであるから、心当たりがある限りアラートに応じるしかない。
アリババの芝麻信用、Wechatの騰訊(テンセント)信用(2017年8月正式リリース)の高スコアを維持したい中国人
こうした悪意の盗難は、犯罪者としてアリババが運営する芝麻信用、WeChatが運営する騰訊(テンセント)信用のスコアに大きな悪影響を及ぼすこととなる。(騰訊信用に関しては、アリババの芝麻信用と類似したサービスで、2017年8月にリリースされた、Glotechtrendsで近日記事を掲載予定)
もはや中国では、WeChatpayやアリペイでの信用スコアは生活のいたるところに浸透し、都市部ではアリペイ、WwChatPayなしではもはや生活できない。スコアをネガティブ評価されることの代償はあまりに大きいといえる。
中国の無人コンビニでは、物理的には簡単に盗難ができるが、それをした時の代償を大きくする盗難予防の仕組みをテクノロジーで構築していたのである。
中国コンビニで盗難が少ない理由のまとめ
1、無人コンビニの開業は、属性の良いロケーションを選択
無人コンビニの多くは、大都市の住民属性の良い場所で開業している。民度の高い地域を選択することが第一段階。大学構内やマンション施設内などは、好条件。あらかじめ質の高い地区を選択することも防犯対策の一つ。
2、防犯システムの強化
入り口の認証システム、商品に関する画像認証システム、退出時に持ち出す商品が決済されているかどうかを判定するセンサー、無死角360°カメラで防犯強化。
3、アリペイの芝麻信用や、WeChatPayの騰訊(テンセント)信用と連携
盗難をした場合には、犯人を特定しアラートを発する。それでも応じない場合は、信用スコアを低下させる仕組みを構築することによって盗難予防対策。
4、最終的な手段として、防犯カメラからの証拠写真や決済データとともに警察へ通報する。
以上のように、無人コンビニの防犯対策は、「盗むことが出来ない」防犯対策をするのではなく、心理的に「盗みたくない」と思わせるようなテクノロジーやインフラシステムを導入し防犯対策に注力されている。
ほとんどの中国人は、無人コンビニで窃盗をした場合には、信用スコアに重大な悪影響を及ぼされることを知っている。コンビニで販売しているような少額の商品を盗難することで、一生ついて回る信用を毀損することはあまりにリスクが高いのである。
現在、無人コンビニでほとんど犯罪が発生していないのは、こうした防犯対策のシステムが構築されている事情をほとんどの中国人が共通認識として理解しているからであった。
防犯対策システムへの初期投資は高いのか?
さて、これだけの防犯システムを構築するには、初期投資が多く必要になるように思われる。そこで最後に初期出店コストを伝統的なコンビニと比較してみたい。
従来のコンビニは、中国で一店舗出店するのに例えばセブンイレブンの店舗開業は130万元程度を要すると言う。北京のローカルブランドコンビニでも45万-70万程度を要すると言う。
しかし、無人コンビニの場合は、初期投資の防犯対策もセットで一般的に10万-30万元程度で店舗開店できるという。そのコストは、伝統的なコンビニの半分以下に抑えられると言う。初期コストも抑制できる上に、運営のための人件費も抑制できるから通常で10ヶ月程度で初期投資金額を回収し黒字化していくという。
これだけの防犯対策を低コストで実現してしまう中国のテクノロジーの進化にはもはや脱帽するしかない。
今後もGlotechTrends(グローバルテクノロジートレンド)として継続して無人コンビニに関するトレンドをウォッチしていくことにしたい。