人民銀行(中央銀行)が「網聯=ワンリェン」という中国版「全銀ネット」の導入を発表した。2018年6月30日から運用開始だ。アリペイやWeChatPayへの影響はいかに?

自由度の高いアリペイやWeChatpayの仕組みにとうとう中国政府が規制を入れる。2018年6月30日から中国版「全国銀行データ通信システム」(全銀ネット)の運用開始で日本の仕組に近づく。これはキャッシュレス社会を拡大するものか、あるいは阻害するものか?

 

  •   アリペイやWeChatPayの本質。それはズバリ摩擦係数が低いこと。

世界で存在感が大きくなり続けるアリペイとWeChatPayであるが、その本質的な魅力と聞かれたらズバリ摩擦係数が圧倒的に低い点だと回答したい。

簡単に説明すると、アリペイはWeChatPayはスマホにアプリをインストールすることでスマホを決済端末にしてしまう。ユーザーはアリベイ口座と銀行口座と紐づけ加盟店で使用すると、加盟店はアリペイユーザーの口座から直接的に決済取引を可能とする。

クレジットカード会社のような介在業者が存在しなくても決済が成立するので、手数料という意味での摩擦、取引の煩雑さという意味の摩擦、店舗に入金されるまでの時間の摩擦。ありとあわゆる摩擦係数が軽減できる仕組みなのである。

 

  • 日本は、全ての決済を「全銀ネット」を経由しなければならない。

中国のアリペイの仕組みは簡単なそうな話であるが、実はこの中国のアリペイの仕組みをそのまま日本で実現しようと思っても難しい。それは国内で決済業務を行うためには、全ての金融機関が参加する「全銀ネット」を通じて行うことが前提として設計されているからである。

「全銀ネット」は、ほぼ全ての金融機関が参加している。ほぼと記載したのは日本銀行だけが参加していないからである。NTTデータによって構築され資金清算機関(セントラル・カウンターパーティ)として、参加者である金融機関同士の複雑な資金決済の関係を整理し、安全な取引を担保する仕組みである。

その一方で、このネットワークを利用するためのコスト負担は、最終的にリフティングチャージとしてユーザーが負担することになる。結果として、摩擦係数は自ずと高くなるわけだ。おまけにシステムの稼働時間も金融機関が営業する平日のみで午後3時までとなっており利便性が決して良いとは言えない。翌日振込当たり前の上に手数料が高いというこのご時世では時代遅れと思えるシステムに我々は慣れてしまっているのである。

 

  • 2018年6月30日から中国でもインターネットでの決済は、全銀ネットのような網聯(ワンレン)が導入されることに

今回の中国人民銀行(中央銀行)の決定は、アリペイやWeChatPayに代表される第三者決済企業が、直接銀行と間で決済の交渉をすることを禁止し、日本の全銀ネットのような網聯(ワンリェン)を経由することで全ての決済を行うことを通達したものである。いわば、日本の全銀ネットのようなワンクッションの仕組みを中国でも導入するということを意味している。

網聯(ワンレン)導入前のネットワーク接続図

網聯(ワンレン)導入後のネットワーク接続図 

網聯(ワンリェン)導入の利点としては、決済に参加する全てのユーザーが安全に円滑な取引をすることを担保できるというものである。

だが、一方で、今までアリペイやWeChatPayが行ってきた、圧倒的な支配力を背景に有利な決済レートを銀行から引き出すという競争力の源泉となっていた自由度を弱めることに繋がる可能性がある。おそらく、アリペイやWeChatPayは網聯(ワンリェン)を使用することでコスト増になり、コストを何らかの形でユーザーに転嫁せざるを得ないことになるだろう。

果たして、2018年6月30日が、今までのアリペイやWeChatPayの活力を削ぐことに繋がるのか注目しておく必要がありそうだ。

 

  •  網聯(ワンレン)の出資者の構成とキャッシュフローデータ(決済に関するビッグデータ)の行方、政府は監視を強化できる

まず、出資者の構成をみていただきたい。

wangling stock holder

上位の3つの出資者は、いずれも中国の政府系の機関である。それ以外は、アリペイとテンセントが9.61%で同等、京東(JingDong)も参加する。他の第三者決済機関も少数出資者として名前を連ね強調しながら運営していく体制のようである。中国の網聯(ワンレン)は、出資者に第三者決済機関も出資にアリババやテンセントも名を連ねており、第三者決済機関の意向を尊重しながら運営されていく可能性は高い。

ただ、上位の出資者は全て政府系が占めていることは、最終的な決定者は政府であり、網聯(ワンレン)から得られる決済に関するビッグデータが政府により監視できることを意味する。従来は、アリペイやWeChatPayが銀行通じて直接資金移動することによって政府の情報把握を困難にしていたが、網聯(ワンリェン)の導入によりキャッシュフローデータの監視を強化できる。不透明な決済や税金逃れなどの監視を強め、マネーロンダリングなどの不正も発覚しやすくする狙いがあると思われる。いずれにせよ、国がキャッシュフローデータに対する監視を強化できることは間違いなさそうである。

 

  •  中国と日本のビジネス慣行の違い。網聯(ワンリェン)の導入事例は、両国のビジネス習慣の違いを理解する上で好材料。

少し本題とは話がずれるが、今回の網聯(ワンリェン)導入の話は、双方のビジネス習慣の相違を知る良い教材である。

日本で、金融業界で新規事業を行おうとする場合、最初に様々な法律問題に突き当たる。大きな法律がありその下に施行令がありそれとは別に規則やらガイドラインが張り巡らされている。気が遠くなる条文との格闘をしなければならない。曖昧な部分を当局に問い合わせても明確な回答は得られず、事業を行う前段階で疲れ果ててしまう。例えば、LINE株式会社が、決済事業に参入するときも、資金決済法(正式名称資金決済に関する法律)の問題点をクリアするために担当者は相当苦労したと容易に推測できる。

中国では全く事情が異なる。とりわけIT関係が絡んだフィンテック分野においては、法律が十分に整備されておらず、企業は割と自由な選択肢の中で活動できる。行政としても、規制を先にかけるのでなく、ある程度民間の自由な発想に委ね状況を見守るという姿勢を貫く。アリペイもWeChatPayも先に既成事実を作ってしまうことが先で、そろそろ法制度を整備した方が良いという段階で初めて法律が整えられる。

まずはやらせてみて状況に合わせて後から法制度を整えるという流れである。

どちらが良いかの判断は難しいところであるが、ことテクノロジーに関しては、ある程度自由な発想で民間に委ねる方が、柔軟な発想が生まれ結果として国力の強化に繋がる場合もあるのかもしれない。議論の分かれるところなので、読者のみなさんのご意見を是非お聞かせ頂きたい。

 

今後もGlotechtrends(グローバルテクノロジートレンド)としても、テクノロジーの進化を楽しみながら、面白いニュース皆さんにお届けしていくつもりである。