【キャッシュレス社会のデメリット】第3回  キャッシュレス社会は外国人や高齢者にとって冷たい社会? 

日本から中国へ最近出張したビジネスマンは、キャッシュレス社会が進行する中国で確実に疎外感を味わっている。現地の友人がいなければ何もできない。食事、無人コンビニへの入店、シェア自転車。そう中国のキャッシュレス社会は完全に外国人を置き去りにして設計されている!

 

中国の流行テクノロジー見学で中国に来たよ。しかし!シェア自転車、無人コンビニ、芝麻信用、外国人はアリペイアカウントがなければ何も楽しめない!

8月下旬の事である。取材のため深センのIOT展示会を訪問した後に、夕食のために市内有数の大型ショッピングモールである「万逹ショッピングモール」のレストランを訪れた。そこで、短期観光客と思しき白人女性が会計の際に現金を握りしめ困った表情で店員に英語で何かを訴えている。

我々はすぐにピンときた。あー現金で支払いが出来ず困っているんだなと。女性の元へ駆け寄り、現金を受け取り代わりに当方のアリペイアカウントを使用して支払いを済ませてあげた。中国では日常的に頻繁に起きる当たり前の出来事である。

我々もそうした光景を目にするのには慣れているので外国人を手助けした後で、中国のキャッシュレス社会の感想を聞くようにしている。誰もが同じことをいう、法定通貨で支払いが出来ないなんて信じられない。中国のキャッシュレス社会は、外国人を阻害していてすごーく居心地が悪い!支払いできずイライラしているタイミングで感想を聞けば、だいたいネガティブな印象が帰ってくる。

最近、日本から中国を訪問した人は、この人の気持ちが痛いほどわかるはずである。ちなみに、アリペイ口座を開設するには中国国内の銀行口座を保有していることが前提となる。短期滞在の外国人にとって簡単にアリペイ口座はひらけない。

念のために記載すると、中国には店舗側は現金支払いを拒否してはならないという法律がある。中華人民共和国人民元管理条例というもので、店舗側はクレジットカードやアリペイのような第三者支払いは拒否できるが、法定通貨である現金支払いは拒否できないはずである。しかし、現実は全く逆となっているのが現実である。

もし、アリペイなどを保有せずに中国へ出かけ、もし現金支払拒否の憂き目にあったら、以下の条文を店舗に見せてもらうと対応が変わるかもしれない。ただし、現金支払い拒否されても当社は責任は取らないので悪しからず。

"「中华人民共和国人民币管理条例总则第三条称,“中华人民共和国的法定货币是人民币。以人民币支付中华人民共和国境内的一切公共的和私人的债务,任何单位和个人不得拒收”」。"

 

キャッシュレス社会に捨てられた高齢者たち

外国人は、その国の国民でないという点から考慮すれば、同国民と同じ権利やサービスを享受できないというのは100歩譲って納得することもできる。

older mobile payment

しかし、キャッシュレス社会で最も悲劇的な阻害者となるのは、自国民の高齢者と貧しい地域の人々である。高齢者はその国を作り上げた功労者であるはずが、突如として誕生したキャッシュレス社会の前に、現在の中国ではたちまち疎外感を味わわなければならない存在となっている。

先に統計を確認して置くことにする。中国のモバイル決済の使用者の中心は紛れもなく若年層である。2016年の統計が示すモバイル決済使用者の年代別グループ分類では、76.4%を30以下の若者が占める。31-40歳の層が16.8%となり、41-50歳と51歳以上を足しても6.8%に過ぎない。この統計数値から見れば、41歳以上という比較的若い世代でもキャッシュレス社会のメインストリームから外れていることがわかる。年齢が高くなればなるほど、モバイル決済を使用している割合が低くなるはずである。

2011-2019Chinese mobile payment

2011-2019までのモバイル決済の決済額(2017以降は予想数値、2016以前は実数、単位:億元)

 

携帯電話の機種更新は毎年のように行われ、アリペイなどの決済アプリの更新も毎月のように行われれる。アプリを簡便に使用できるようアップグレードが繰り返されているのであるが、それは若者にとって好都合な話であって、高齢者たちにとっては只々煩わしいの一語に尽きる。ましてや、このアップグレードになりすました詐欺サイトが存在する。高齢者たちは直接的に詐欺の被害に合わなくても、友人がそうした詐欺にあったと聞けばたちまちスマホのアップグレードに億劫になって諦めてしまう。少しの諦めがキャッシュレス社会からの脱落という重大な結果をもたらすことになる。

頑張ってスマホを活用している進歩的な高齢者たちは、スマホの画面に送られるプロモーションを見て、安いと思って直接その店舗に出かける。ようやくプロモーション商品を見つけ、高齢者たちがお店でお会計をしようと現金を取り出すと、店員にそのプロモーションは、アリペイ決済限定だと聞かされキャッシュレス社会の疎外感を味わうこととなる。スマホを活用している高齢者でも、アリペイまで活用できる高齢者層はそうは多くない。こうした、高齢者がキャッシュレス社会から疎外される現象は中国で既にたくさん起きているのである。

アリペイ決済はクーポンとの連動性が高い。現金で支払うよりもアリペイ決済の方が割安になるのが大半である。現金支払いを中心とする高齢者たちは、アリペイを活用して決済する若者と比較して、ディスカウントやクーポンといったサービスを享受できないこととなる。キャッシュレス社会に参加出来ない人たちは、知らず知らずに不利益を被る制度設計となっているのである。

当ウェブサイトでもなんども取り上げたアリババのO2O店舗の「盒馬鲜生」(ファーマーションシェン)であるが、誕生したばかりの頃は、現金決済を一切受け付けないというのを売りにしていた。しかし、老人たちから現金でしか決済できないとの苦情が多数寄せられたことにより、中国政府が行政指導を通達し現金のレーンが一番端に申し訳程度に用意されることになった。仕組みとしては直接現金で支払いをするのではなく、現金を店員に一旦渡して店舗のスマホに一旦現金をチャージして、そのスマホで決済をするという流れになる。老人と外国人専用決済レーンが一番端に用意され、自分たちが社会のメインストリームでないことを実感しながら寂しい決済をすることとなる。

 

キャッシュレス社会こそが、現金決済を必要としている!?

キャッシュレス社会は、外国人や老人たちを代表とするアリペイアカウントを活用できない人たちをその枠外に阻害している。プライバシー問題など、何らかの個人的な理由でキャッシュレス決済を使用したくない人々も阻害される対象となるだろう。キャッシュレス社会とは、一般の若者たちを中心とした標準ITリテラシーをクリアした人々たちが楽しめるクローズ社会なのかもしれない。

キャッシュレス社会を不平等感なく実現するためには、完全なキャッシュレス社会を目指すのでなく、常に現金決済が可能なスペースを確保しておく必要があるだろう。外国人も、高齢者たちも、スマホを購入できない貧困層も、ITリテラシーが低い人間にも、当然、社会に参加する権利があるのである。キャッシュレス社会の設計には、こうした人たちのために開かれた窓を用意しておく必要があるだろう。

ちょうどこの記事内容を記載している最中に、11月6日よりロイヤルHDが現金支払いお断りのキャッシュレス決済のみの店舗を実験的に開くとのニュースが入って来た。中国よりもはるかにキャッシュレス社会が遅延している日本で、現金お断りのお店が果たして機能するのだろうか大変興味深い。現金しか持ち合わせていないという外国人や高齢者にどう対応するのであろうか。

とりわけ日本では、高齢化が進んでいる。今後日本が本格的なキャッシュレス社会に移行していくのかはまだわからないが、もしキャッシュレス社会へ移行していくならば、高齢者たちをサポートするヘルプデスクのようなコールセンターを配置するなど、手厚いサポートが必要となるだろう。一歩間違えると、キャッシュレス社会=冷たい社会となってしまう可能性を孕んでいることに留意しておきたい。

 

さて、今回は、キャッシュレス社会のデメリットとして、外国人や高齢者たちにスポットを当てた。次回は、キャッシュレス社会がもたらす、職の喪失について考えてみたい。AIの発展と同様に、多くの職業がこの世から無くなりそうな気配である。

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