【キャッシュレス社会のデメリット】第2回 増殖する信用スコアの奴隷たち、信用スコアが階層社会を作る!?

 ブラックミラーというイギリスの人気ドラマがある。テクノロジーが進化する未来の世界の問題点をあぶり出している。とりわけSNSに基づく信用スコアを冷笑的に炙り出した回はリアリティーに富んでいた。信用スコアを前提とする世界がすでに一部で現実のものとなりつつある。

 

⌈ ブラックミラー(2016) 信用スコアを皮肉っぽく描くTVドラマが確信をついていて怖い!⌋

2016年末に放送されたイギリスのTVドラマがある。ブラックミラーは、テクノロジーの進化をシニカルに描く人気ドラマで、既にシーズン3まで制作されている。ブラックミラーのシーズン3の第一話で描かれた世界が、キャッシュレス社会が作りあげる信用スコア社会に大変類似しているので紹介したい。

ネタバレの部分を含んでいるので、ドラマを楽しみにしたい方は先に視聴されることをお勧めする。

主人公は、テクノロジーが進化し信用スコアが発達した未来に住んでいる。メガネのようなデバイスを用いて瞬時に相手の信用スコアを確認することができる。1-5段階のスコアの中で数字が多ければハイクラス、逆に2ポイント以下はほぼ負け犬扱いの社会である。彼女のスコアは4.3ポイントと悪くない。

未来の信用スコアが発展した社会においては、より高いスコアの人はより高いサービスを楽しむことが出来、逆に信用スコアが低い人は、制限されたサービスしか提供されないようだ。そういう社会の中で、人々はせっせと信用スコアを上げるための努力を行ない、信用スコアを上げるためにSNSで良いコメントを残し、常にニコニコしてご機嫌を取り、他人の前で本当の自分を包み隠し良い人を演じることになる。

ある日、主人公の女性は不動産を購入したいと思う。しかし、この不動産はハイスコアなロケーションに位置するため信用スコアが4.5以上の人しか購入できないようだ。不動産を購入するのにも信用スコアが必要らしい。そこで、主人公はスコアを上げるための努力を試みる。最も簡単にスコアを上げる手段は、SNSにおいてハイスコアの人たちのネットワークに入ることだと気がついた彼女は、ハイスコアの友人をSNSで探す。すると少女時代の友人が4.7というハイスコアを維持し、運がいいことに結婚式で少女時代のスピーチを求めていることに気がつく。4.7ポイントの友人は、主人公のスピーチを快諾しさらに結婚式に参加すればハイスコアの人たちのお友達を紹介しSNSで繋がれると示唆される。

意気揚々と結婚式場に向かう彼女であるが、道中の飛行機が突如キャンセルされたことに端を発し警備員と小競り合いになり、24時間限定の信用スコア1ポイント減免ペナルティーを受ける羽目になる。ペナルティーを受けた彼女のスコアは、突如3.3まで下落し、用意された飛行機にも信用スコア不足のため優先搭乗の権利を付与されず、別の手段で結婚式場へ向かわなければならない。レンタカー会社でさえも信用スコアが3.3しかない彼女に対して車をすぐに用意してくれないようだ。渋々ヒッチハイクするも、トラックのドライバーからの信用スコアが悪いことを指摘され訝しがられながら渋々乗車させてもらう始末。

やっとの思いで、友人の結婚式会場にたどり着いた時には疲れきた表情と、小汚い衣装で、しかも信用スコアが3.3まで急落してしまった主人公の姿をみて、スピーチを依頼した友人が顔を汚すという理由でスピーチをキャンセルしてしまう。

結局、無理やりスピーチを行い起死回生のスコア大逆転を試みるも信用スコア3.3しかなく、しかもあまりの悲哀に満ちた表情のために、オーディエンスから次々と悪い評価をつけられて、どんどん評価が落ちてしまう。

挙句の果てに錯乱状態に陥った彼女が刃物を取り出したところで、警察を呼ばれ刑務所送りとなってしまう。刑務所に送り込まれた主人公は、スコアメガネを外し信用スコアのない普通の生活のリラックした気持ちを感じることとなる。信用スコアなんか気にする必要がなかったんだと。

完全なるネタばらしをしてしまったが、このドラマは信用スコア社会が作り出すデメリットを痛快に炙り出している。社会が作り出した信用スコアの数字を盲目的に信用してしまい、信用スコアの奴隷となると本質を見失い、悲しい結末が待ち受けているのである。

 

⌈ アントフィナンシャルの「芝麻信用」に見る信用スコアによる評価社会。数字が一人歩きし、数字だけが人をジャッジする。⌋

本来、人間は外見的な容姿であったり、仕事であったり、学歴であったり、家庭環境であったり、判断する材料は人それぞれ異なるが、それぞれの多様な判断基準で他人をジャッジしている動物なのかもしれない。同じような価値観の人間が、比較的友達になりやすいというのは経験則的にも頷けることである。

しかし、キャッシュレス社会が進展するとどうやら状況が変わってくるのかもしれない。

中国のキャッシュレス社会において、そこから派生した芝麻信用という信用スコアシステムについて確認してみたい。アントフィナンシャルが展開するアリペイによって、決済データを中心としてお金に関するデータが蓄積される。そして、アカウント登録時に個人情報を登録し、学歴、勤務状況、不動産保有状況、家族の状況などを登録することでスコアが高くなると言われているので、人々はせっせと個人情報を登録する。さらに、アリペイを活用すればするほど信用スコアが高くなる仕組みになっているので人々は決済時にアリペイを多用し、せっせと自らの信用スコアを高めるために努力することとなる。

参考記事:【キャッシュレス社会】芝麻信用(読み方はジーマ信用)とは?杭州では信用を使ってお金を節約できる!

アリペイは今やユーザーが5.2億に達し、世界最強の決済手段となっている。そのユーザーは、必然的に芝麻信用スコアを保有することになり、そこで数値化された単一の評価スコアが一人歩きするようになる。数字=人間の評価の社会がこうして誕生するのである。そこには、本来人間が持つ多様性といったものが置き去りされ、スコアの数字だけが一人歩きする。

中国で現在芝麻信用スコアがどのように活用されているかもう一度確認しておきたい。そこには、信用スコアが高ければ、より高いサービスを享受できる現実が如実に映し出されている。

例えば、住宅を賃貸するときに、オーナーから芝麻スコアの提示を求められる。テナント側もオーナーがどういう人なのか信用のスコアを求める機会が増えている。

さらに、住宅を賃貸したいときに信用スコアが高い人には、保証金なしで賃貸が可能となる。通常は3ヶ月ごとの前払いが当たり前の中国で1ヶ月ごとの前払いも可能となる。

参考記事:アントフィナンシャルが中国賃貸物件プラットホームをローンチ!芝麻信用650以上あれば、デポジット不要でお部屋が借りられる!?

ホテルに行けば、チェックインする際に信用スコアを提示することによって、宿泊代金を宿泊後の後払いにすることができ、おまけにデポジットも払う必要がない。流行しているシェアリングエコノミーの代表格、シェア自転車、シェアバッテリーなども、芝麻信用スコアを一定数クリアすることで、デポジットを支払う義務を免除される。

まさに、信用スコアが高い人間を評価する社会インフラが出来上がっているのである。

その一方で、信用スコアの低い人間は、こうしたサービスを享受するための不利益を被ることになり、一定のスコア以下の人間は、門前払いされサービスすら享受できないこともある。

現在、多くのインターネットサービスが、初回の会員登録の時点で、アリペイアカウントと芝麻信用のスコアをリンクする必要に迫られるために、信用スコアが低い人間は、こうしたサービスに制限を加えられることになる。

 

⌈芝麻信用スコアを上げるためにはどうしたら良いのか?⌋

では、芝麻信用スコアを上げるためには、どうしたら良いのだろうか?お金持ちの家族の元に生まれ、良い大学を出て安定的な良い仕事につく。こういった形式的な基準を既に手にしているならば、アリペイを登録するときにそうした個人情報を登録すれば簡単である。資金に余裕があるのであれば、より立地の良い場所に不動産を購入し評価の高い戸籍を獲得することも有効である。

zhima credit score

地道に行える手段としては、アリペイを日常的に活用し、規則に則りトラブルなく買い物をたくさんすることである。さらにSNSでよりハイスコアの人間と友達になり常にポジティブなコメントを残し、自分はこのクラスの人々たちと対等なネットワークがある人間であることをアピールすることも有効である。

まさに、ブラックミラーで語られていた世界が既に現実のものとなっているのである。

 

⌈Uberにおける信用システムの事例⌋

もう一つだけ簡単に信用システムの事例を考えてみたい。Uberで形成される双方向の信用システムである。ユーザーはドライバーを評価し、逆にドライバーもユーザーを評価できる双方向評価システムを売りにしている。

Uber review score

しかし、表向きは双方向評価システムであるがそこには公平性は存在しない。Uberの運転手は、ユーザーから低い評価を受けるとその週のボーナス報酬を付与されない仕組みになっているため、低いスコア評価を得ると生活に直結することとなる。従って、ドライバーは、常にユーザーがハイスコアを提示してくれるよう作り笑いをして、必要以上の努力をしなければならない。ドライバーが信用スコアの前にへつらうという信用スコア社会の弊害がここにも表れている。一般のタクシーに比べてUberのサービスが良いとされる理由はここにあるのかもしれない。もちろん、ユーザーの方はUberが気に入らなければ他のサービスに切り替えるだけなので、作り笑いをしてドライバーのご機嫌を取る必要はない。。

 

⌈キャッシュレス社会の信用スコアは、強者をより強者に、弱者をより弱者にする!?⌋

アリペイとその信用スコアである芝麻信用は、中国ではすでに社会インフラといって良いほどの影響力がある。信用スコアの高いものは、あらゆるサービスの便益を享受できる。そういう意味では、数字だけが一人歩きし強者をますます強者にしていく仕組みであると言えるだろう。一度芝麻信用スコアによりランク付けされると、信用スコアが社会的な階級をも形成し、その階級から抜け出すことが困難となる。相互間の階級移動が困難になる硬直した世界がやってきてしまう危険を孕んでいる。

人間が、キャッシュレス社会の中で、信用スコアの評価を気にするあまり信用スコアが上がりそうな行動を繰り返すという現実はすでに中国で起きている。信用スコアとは、本来人間性とは無関係のものであるべきはずのものであるが、数値が一人歩きしてしまい実社会に信用スコアが大きな影響を及ぼす社会では、人間は信用スコアの前に自らの行動に制約を加えることになる。ここまでくると、人間が「信用スコアの奴隷」と化し息苦しい社会となってしまう。テクノロジー自体は、社会に害悪を及ぼさないが、それを設計する側が誤った設計を行えば、社会に対して害悪を及ぼすこととなる典型事例である。

幸運にも、現在日本では人々の思考が多様性に富んでおり、同時に多くの競争が存在している。キャッシュレス社会到来に備えて、今の段階から問題意識を持ってより良い信用システムのデザイン構築を検討していく必要があるだろう。

 

さて、今回は【キャッシュレス社会のデメリット】の第2回目として、信用スコア社会がもたらす社会の歪みについて考察した。次回は、キャッシュレス社会が置き去りにするものとして「社会的弱者の存在」にスポットを当ててみたい。

誤解されないように最後に付言しておきたいが、当サイトはキャッシュレス社会の到来を否定する立場ではない。あくまで、議論する叩き上げとしてキャッシュレス社会のデメリットを列挙するものである。キャッシュレス社会のメリットとデメリットを総合的に議論した上で、最終的にキャッシュレス社会の到来が、明るい未来をもたらすことを望んでいる。