【キャッシュレス社会のデメリット】第1回 中国のキャッシュレス社会はガチガチの監視社会!?あなたはいつでもどこでも監視される覚悟はあるか?

中国で急速に進んだキャッシュレス社会だが、そのデメリットや弊害の部分も明らかになりつつある。数回に分けてキャッシュレス社会のデメリットを特集し問題点をあぶり出したい。第1回目の今回は「プライバシー問題」について考察したい。

big data stealing and selling

“キャッシュレス社会=ビッグデータ社会、服を着ないで街を歩いているようなもの。あなたがどこで何をしているのかすぐにわかる。”

キャッシュレス社会は、言うなれば人々が服を着ないで街を歩きまわるような社会である。朝起きてシェア自転車の「Mobike」で通勤する、帰宅は配車アプリ「Didi」でタクシー帰宅。いずれも決済はアリペイかWeChatPayである。朝ごはんを食べればコンビニだろうが屋台だろうが否応なく同様にモバイル決済。ランチでもおやつでも全てがモバイル決済。

週末には、「盒馬鲜生」(ファーマーションシェン)でオーダーする。なんども注文を繰り返すうちにどこに住んでいるのか。どんな味覚を好むのか。購入金額平均。子供がいるのかなどの家族構成など、全てのデータを把握されてしまう。Eコマースであれ、海外旅行であれ、金融商品の購入であれ、何でもアリペイとWeChatPayで決済する。

中国で流行するシェア自転車、シェアバッテリー、シェアジム、シェアカーなどの便利なサービスを活用するために、最初にすることはアリペイアカウントの登録なのである。おそらくこれから次々と生み出される新しいサービスも、何でもかんでもモバイル決済となるだろう。

以上のように、中国ではアリペイとWeChatPayのモバイル決済を中核としてお金にまつわる全ての経済活動を把握される社会ができつつある。

キャッシュレス社会とは決済を容易にする一方で、バーターとしてユーザーはお金に関するビッグデータをアリペイとWeChatPayに無償で提供するしなければならない。実は、これが中国のキャッシュレス社会の隠された本質なのである。

アリペイとWeChatPayは中国の決済データを独占すれば、その背後に大きな宝が眠っているということに早くから気がついていた企業である。この2社は、現在モバイル決済を通じて中国人の生活実態をほぼ丸裸に把握し、さらにそのデータを分析し、そのビッグデータを活用して次のビジネス展開をどんどん考えている。

アリペイを運営するアントフィナンシャルはあなたのことを自分の家族、もしかしたらあなた自身よりもよく把握しているのかもしれない。恐ろしい社会が現実のものとなっているのである。

 

“7万を超える闇サイトが存在!あなたの個人情報が売れらているかも?”

面白いことにアリペイとWeChatPayの大躍進とビッグデータの価値が急速に高まってきた時期というのはちょうど重なる。キャッシュレス社会とビッグデータの間に密接な感性があることを示している。

モバイル決済により、お金に関するビッグデータが集積され、それを活用して新しいビジネスの原動力となることが人々に理解されたのである。ジャック・マーや習近平が「ビッグデータは現代の産業革命の石油だ。」と煽ることによって、ビッグデータを活用して新しいビジネス展開の源泉とする動きがますます加速している。

こういう状況になれば、ビッグデータを違法行為によって入手しようとする集団が登場し始める。現在7万を超えるビッグデータ販売を目的とする闇サイトが存在するという。

2016年中国系の闇サイトで1000万件に及ぶ中国大手のECサイトの顧客情報のデータが販売されているのが確認され、その情報の中にはユーザー名、ID、パスワード、Email、QQアカウントなどが含まれていたという。さらに記録によると既にこのデータは100回以上の売買履歴があり、価格は10万元から70万元程度(日本円で165万円から1200万円程度)とかなり高額な金額で売買されていたという。これらのビッグデータの出元は特定されていないが、ハッカーのような外部からの攻撃により漏洩したものか、あるいは内部流出の可能性も否定できないという。

この闇サイトでは、顧客が特定の情報を依頼することも可能であり、顧客はサイト運営主に成功報酬を支払うことを約束し欲しい情報を要望していくのだという。

こうした闇サイトは、ハッカー集団達と何らかの関係がある可能性が高く既にハッカー集団と連携した一大産業の様相を呈している。

顧客に人気があるのは、ネット企業、金融機関、ホテルや航空券を予約する旅行サイト、運送会社、レストランチェーンなどの企業のビッグデータ情報が人気があるという。

アメリカでも同様に大規模な情報漏洩事件が多発している。つい最近の9月7日にも信用情報会社であるEquifax社が1億4300万人の個人情報の漏洩を発表し、幹部二人が責任をとって辞任する運びとなった。44%に及ぶアメリカ人の名前、社会保障番号、誕生日、電話番号、クレジットカード番号などが含まれた貴重なデータが入っているという。昨年にも2016年12月に米ヤフーが10億ユーザーにも及ぶ個人情報流出事件を起こしたり、規模の大きい個人情報流出事件が頻繁に起きているのである。日本も多くの顧客情報漏洩事件を引き起こしている。世界中で漏洩したプライバシーが闇サイトで販売されているのである。Equifax社からの漏洩データも、既に闇サイトで出回っている可能性が高い。

 

“誰がこうした情報を購入するのか?”

一つには、従来からある詐欺集団と言った犯罪組織である。個人情報を購入することで、対象を絞り込み計画的な詐欺を行う。日本のオレオレ詐欺のようなものは典型であるし、世界中にこうした集団は存在する。しかし、こうした集団の購入は実際は少ないという。

最近、こうした闇サイトでデータを売買するAI企業が増えているようである。AI企業にとっては、ビッグデータが成長のための最大の資源であるわけで、成長を加速させたいAI企業にとっては、ビッグデータが喉から手が出るほと欲しいターゲットとなる。その中でも、現在フィンテック企業が最もビッグデータを必要とする企業群であり、とりわけお金に関するビッグデータには高値がつくという。

あるシリコンバレーで勤務する中国人技術者の話によると、中国に戻ってスタートアップを設立したいという。一番の理由は、簡単にビッグデータが獲得することができるので、AI系のスタートアップ設立にはアメリカよりも優位性が高いという。大変印象的なコメントである。もちろん一部のAI企業だけがこうしたブラックマーケットに触手を伸ばすわけであるが、無視できない数に及ぶという。

 

杭州在住の中国人(女性25歳、独身)にキャッシュレス社会をどう思うか聞いてみた

杭州は、行政をあげてキャッシュレス社会を促進している街である。アリババの本社もここにあり、中国で最もキャッシュレス化が進んでいる街と言えるだろう。ごく一般の中国人女性にキャッシュレス社会をどう思うか聞いてみた。

「プライバシーの問題もあるが、アリババとテンセントが私たちの生活を劇的に便利で快適なものに変えてくれているのは疑う余地がない。どうせ私の個人情報データなど価値がないのだから、それを提供することによって、次々と革新的な新しいテクノロジーを享受させてくれるなら喜んで個人情報を提供するわ。アリババとテンセントは過去の実績を勘案しても、確実に中国人に幸福と富をもたらしてくれた。これからも信用します。」

中国人の権利に関する感覚は随分と日本人と異なることを痛感するコメントである。

プライバシーの観念が欧米人や日本人より乏しい中国の方が、キャッシュレス社会からの便益を享受しやすいのかもしれない。中国が急速な勢いでテクノロジーを進化させる現在において、日本人もプライバシーに関して真剣に考える必要がありそうだ。

 

GlotechTrends(グローバルテクノロジートレンド)としては、数回にわたり、キャッシュレス社会のデメリットについて考察してみたい。次回は、芝麻信用などがもたらす信用スコア社会の歪みについて考えてみたい。

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