【総合フィンテック企業とは】の第3回目は、2016年8月から開始されたアントフィナンシャルが運営する「アント森林(Ant Forest)」の機能をご紹介したい。この仕組み、中国人に観光保護意識を普及するとともに将来的にはグリーンフィンテックのプラットホームになる可能性すら秘めている?
アント森林(Ant Forest)が中国人の間で大ブーム!ユーザー数は2億3000万人 中国人の環境意識が急速に変わりつつある!?
2017年12月5日、アントフィナンシャルの副社長である蘇強が、国連の環境会議(正式名称:Third Session of the United Nations Environment Assembly and its associated meetings)において、アントフィナンシャルが展開するアント森林(Ant Forest)のビジネスモデルを紹介し環境保護を訴えた。
2016年8月に開始したアント森林(Ant Forest)事業は、既に2.3億人の中国人ユーザーを抱え、アリペイを活用しながら中国人が日常的に環境保護に即した行動を行い、CO2排出削減に威力を発揮しているという。
2017年8月末の時点で、アント森林は累積で排出量122万トンに及ぶCO2の削減に成功し、同時に中国の甘粛省や内蒙古地区で1025万本に及ぶ植林活動を行なっているという。ユーザーが植林した木には特定可能な番号が付与され、ユーザーは衛星写真で送られてくる自分が植林した木の映像を通じて成長プロセスを確認することが出来るという。
アント森林(Ant Forest)の仕組みとは!?環境保護活動を通じてポイントを貯めて、溜まったポイントで植林活動。
前回の【総合フィンテック企業とは】シリーズと同様にアプリの画面を活用して、アント森林(Ant Forest)の仕組みをご説明したい。
この仕組みも、アントフィナンシャルが展開する総合プラットホーム「アリペイ」の一つの機能としてアプリ内に搭載されている。左上の目立つ場所に配置されており、フィナンシャルとしてもこの機能の普及促進に力を入れていることが理解できる。
まず最初に自分が植林したい木を指定することとなる。小さな木の苗木であればCO2削減量が17900g、大きく成長する木であれば215680gものCO2削減量が必要となる。それぞれ自分が目標とする木を選択する。
木を選択したあとは、実際に自らが環境保護の観点に立った行動を取ることによりCO2削減し、グリーンエネルギーポイントを獲得することが出来る。
例えば、紙を使わず公共料金を電子決済したり、シェア自転車や地下鉄を活用し自動車に乗らないことでCO2排出量を削減したり、リサイクルの小包箱を活用した宅急便を選択したり、オフィスでぺーペーレス活動に貢献したりなど、どういった行動を取ることでグリーンエネルギーポイントを獲得することが出来るのかの条件が説明されている。
ユーザーは、常に環境に配慮した行動様式を取ることによって、翌日にグリーンエネルギーポイントが付与されるという仕組みである。行動により2gや3gといったCO2削減ポイント(グリーンエネルギーポイント)を獲得する。
ユーザーは、自分の友人がどれくらいのグリーンエネルギーポイントを保有しているのかをランキングで確認することが出来、自分の周りで誰が環境保護に即した行動をしているのか理解できる。友人と競い合うかのように環境保護に邁進する。
また、中国人の特性からして単に真面目にグリーンエネルギーポイントを集めるだけではすぐに飽きてしまうので、ゲーム性も兼ね備えていて、友人のグリーンエネルギーポイントを盗むことが出来たり、友人の木に水をあげるというアプリ上の行動で、ポイントを友人に付与したりすることが出来る。
一定のポイントがたまると、中国の甘粛省や内蒙古地区やアフリカなどで本物の木を植林することになり、その木には自分だけの木であるという証明書が発行される。植林の様子は、毎日人工衛星を通じて画像がスマホに配信され、砂漠の荒野が、植林を通じてグリーンに変化していく様子を体感することで環境意識をより高めていくこととなる。また、自分が植林した特定の木の映像も、毎日確認できる仕組みになっており高い参加意識を維持しながら環境保護活動に参加できる仕組みとなっているのである。
アリペイにはCO2を管理する「環境口座」が配備された。「環境口座」が持つグリーンフィンテックの可能性
上記の説明だけをすると、日本の読者の方は大昔から日本人が行なっていたベルマーク的な親善事業をテクノロジーやスマホを活用して進化させただけではないかという反応もあるかもしれない。
しかし、アントフィナンシャルのグリーンエネルギーポイントの試みは、フィンテック分野でもっと奥が深いものになる可能性を秘めている。その鍵となるのが、アントフィナンシャルが、アリペイユーザーでアント森林(Ant Forest)サービスを活用したいユーザー向けにCO2を管理する「環境口座」を開設させている点である。
現在、アントフィナンシャルのアリペイユーザーは、3つの口座を保有することができる。
1つ目は資産アカウント、最もポピュラーなもので文字通り「アリペイ」や「余額宝」その他保険や投資信託といった、全ての金融資産を統括する口座である。
2つ目は、芝麻信用に関連する自分の信用スコアに関する口座である。(任意)
3つ目の口座となるのが、このCO2を管理する「環境口座」である。(任意)
2016年8月に新しくサービス開始されたアント森林(Ant Forest)が有するユーザーは既に2億3000万人に及んでいる。
Bring small and beautiful changes for the world (世界に小さく美しい変化をもたらす)= アントフィンシャルのスローガン
もう一度、アントフィナンシャルのスローガンを確認しておきたい。Bring small and beautiful changes for the world (世界に小さく美しい変化をもたらす)2億3000万人にも及ぶ中国人が、CO2削減に関する環境口座を保有しているということは、どういうことを意味するのだろうか?
ここから先は、何の根拠もない筆者の空想とも言える部分なので、興味のない方は読み飛ばして頂きたい。
1997年に京都議定書が採択された。多くの問題を抱えながらもCO2削減に向け世界は動き出していると言える。しかし、CO2排出権取引に参加できる人々は、国や大企業、大きな団体にとどまっている。一般市民は、CO2排出権取引に参加しようがなく、環境問題はどことなく市民とは遠く乖離した話なのである。
しかし、アントフィナンシャルが行うアント森林(Ant Forest)は、CO2排出権の個人、プラットホームになる可能性を秘めている。既に2億3000万人の個人ユーザーが参加し、約一年間で122万トンに及ぶCO2削減枠を生み出している。これは既に無視できる存在ではない。Bring small and beautiful changes for the world (世界に小さく美しい変化をもたらす)というアントフィナンシャルのスローガンが、CO2排出権を巡る分野でも美しい変化を生み出すのかもしれない。小さな個人ユーザーをたくさん集めて世界に大きな変化をもたらすかもしれないのである。
数年後に、アントフィナンシャルが作り出したアント森林(Ant Forest)のプラットホームが、CO2排出枠を取引するメジャーなプラットホームになっている可能性は否定できない。アントフィナンシャルが、今度どのようにグリーンフィンテックの分野で活路を見出していくのか、大変興味深い部分である。
アント森林(Ant Forest)がもたらしたアリペイユーザーのアプリ滞在時間の延長
アント森林(Ant Forest)は、アリペイとWeChatPayという中国の2大決済プラットホーム戦争にも大きなインパクトを与えている。
近年WeChatPayの勢いにアリペイは押され気味であった。それは、WeChatは従来ゲームやSNSを本業とすることもあり、WeChatというプラットホームにユーザーが滞在する時間が長い点が関係していると言われていた。
アリペイは、SNSを保有しないのでどうしてもアリペイのプラットホームでユーザーが滞在する時間が短くなってしまうのである。
しかし、このアント森林(Ant Forest)が、ユーザーがアリペイのプラットホームに滞在する時間を長引かせることに重要な役割を担っている。
前日に獲得したグリーンエネルギーポイントを翌日に確認したり、友人同士のグリーンエネルギーポイントを確認したり、グリーンエネルギーポイントを集めるためのゲーム性を兼ね備えたことで、ユーザーの滞在時間が大幅に伸びているという。
Glotechtrends(グローバルテクノロジートレンド)としては、今後も総合フィンテックのビジネスモデルに注目していきたい。グリーンフィンテックという新しい試みが成功するかどうか大変興味深い。
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