2017年5月アリペイが香港で本格的ビジネスをスタート、HKのキャッシュレス社会化を目指す|アリペイ香港

アリペイは、2017年5月25日から香港で本格的にサービスを稼働している。8月23日香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が、自ら中国杭州のアリババ本社を訪れ、アリババグループ代表ジャック・マーとトップ会談を行った。アリペイが香港をどう攻略していくのか、アリペイの日本進出においてもとても参考になる事例となるだろう。

  • アリペイが5月25日、香港で本格的なサービスをスタート

アリペイは、今年5月「アリペイ香港(支付宝HK)」の名称で、香港で本格的にアリペイのビジネスをスタートした。5月現在において、香港内で使用できる店舗数は約2000店という小規模からのスタートであるが、アプリのダウンロードは最初の2週間で10万人を超え6桁に突入したと発表があり、使用可能店舗も年内に8000店舗まで拡大する方針だという。

香港では、アリペイは地場の金融機関を提携するのではなく独自に支店を置き自らが運営主体としてアントフィナンシャルの支店を香港に構える形で進出展開を行っている。取材で8月23日に訪問した香港で、セブンイレブンでも使用できるようになるなど、アリペイの普及が始まった事が確認できた。

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  •  2016年9月 香港金融当局は5つの企業に決済事業のライセンスを付与

アリペイは香港へ本格的に進出する以前から着々と香港進出に向けた準備を重ねていた。人口730万人程度の香港で、アリババのEコマース事業であるタオバオのユーザーは100万人超に及ぶと言われそうした香港タオバオユーザーをサポートするため、2007年に開始したバーチャルアカウントサービスが、アリペイが最初に香港で行った事業である。これにより、香港人は擬似アリペイ口座を保有できるようになり、中国元ベースでのタオバオで買い物が可能となった。

その後、アリペイは2016年9月に香港の金融当局から念願の電子マネー決済分野のライセンスを獲得した。ちなみに同じ2016年にライバルであるWeChatPayも同様のライセンスを取得しているし、地場の企業でもオクトバスカードの八达通卡、HKT Payment Limited 、HKT’s Tap & Goなどが、同じタイミングでライセンスを取得している。

 

  • 中国の元祖アリペイとアリペイ香港(支付宝HK)の違い

元祖アリペイと異なり、アリペイ香港(支付宝HK)は、2つの方法での決済方法からスタートしている。一つ目はVisaかMasterのクレジットカードを事前登録しクレジットカードと紐付けクレジットの信用の枠内で決済する方法。2つ目は事前にアリペイ口座に必要な金額をTOPUP(前払い)してその範囲内でアリペイを使用する方法。

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元祖である中国のアリペイは、多くの機能が内蔵されたアプリであるが、アリペイ香港(支付宝HK)は元祖と比較すると簡略版アプリという印象である。それでも、QRコードを用いて決済する主要な部分や、タオバオでの買い物を直接アプリから行える機能やレストランのクーポンチケットを獲得できる機能など、アリペイ香港進出の初期段階としては十分な出来栄えである。今後は、普及の進捗に合わせて随時機能を拡張していく予定だという。

現在は、アリペイ香港(支付宝HK)を普及させるためのキャンペーンとして、20香港ドル以上の買い物をすると1ポイントを取得でき。それを3ポイント貯めることによって、50香港ドル分の割引優待権がもらえるという。

  • 香港人=金融都市のプライド 従来のクレジットカード+オクトパスカードによる電子決済社会で十分に満足。

深センから陸路で香港へ行くと突然現金社会に様変わりする。国境では、ホームレスがメッセージを記載して金銭を要求しいたがそこには、QRコードでの待ち受け箱はない。中国でキャッシュレスになれた状況で香港へ行くと最初は戸惑いながらも、香港で到着したことを実感する。

途上国から先進国へ到着したはずが、キャッシュレス社会という点においては、現金依存の過去にタイムスリップしてしまったような感覚に陥るから不思議なものだ。

、マカオ、台湾地区を統括するアントフィナンシャルのマネーキャーである李詠詩(Li Yongshi)は、香港人はまだ現金主義が根っこにあると語る。彼女はスタンフォード大学で、コンピュータサイエンスを学んだ超エリート香港人であり、アントフィナンシャル香港で仕事をする以前は、Paypal, eBay, Apple Payでキャリアを積んだ電子決済のプロフェッショナルである。シリコンバレー、上海、シンガポール、香港と渡り歩いた彼女は、金融が発展している地域であるほど、新しい手法の受容は遅れると分析している。

さらに、Master Cardによる2016年初期の調査結果を引用してこう語る。

「中国本土では、電子決済が62%であることに対し、香港では14%に止まる。香港人は、長らく金融都市として発展したプライドがあり、時間をかけて形成されたクレジットカード文化や、オクトパスカードという香港で普及する電子カードによる決済で、ほぼ満足している。あえてアリペイというQRコードに依存する新しい決済手段の必要性を感じていない。先進国の人たちは独自に時間をかけて構築した頑固な習慣があり、これを変えていくのは単に決済手段を変更するというだけでなく、彼らの思考を変えライフスタイルの変更に挑戦する意気込みが必要である。

香港をご存知の方なら、オクトパスカードがどれほど便利かお判りだと思う。バスや、電車、コンビニ、あるいは日常通っているフィットネスクラブなど、あわゆる場所でオクトパスカードが日常的に使用できる。確かに、十分便利であり、生活に直結するような難儀は一切ない。

だが、李詠詩(Li Yongshi)は、合わせてこうも続ける。

「QRコードの決済手法は、どれほどのインパクトがあるのか一度使うと理解できる。まずは使ってもらい市場を拡大することを目指す。」と。

決済分野に関しては、日本も香港人とほぼ同じような思考が根付いているように思う。クレジットカードで十分便利であるし、Suicaなどの電子決済も生活の周りに溢れ十分に満足している。日本円に対する信頼も高く、キャッシュがあればなんでもできる。香港も日本と同じようなプロセスで金融が高度に発展した先進国であるため日本人にとっては香港人の思考に親近感を覚えるに違いない。香港人と日本人は、キャッシュレス社会に対する捉え方が現時点では極めて類似している。

であるが故に、日本と同じ金融先進都市である香港が今後アリペイにどう対峙して行くのか大変興味深い。アリペイの日本進出を考える上でも大変参考になる事例となるだろう。Glotechtrends(グロテックトレンド)としては、今後も香港のキャッシュレス社会化への動きを随時ウォッチして行くことにしたい。

 

  •  8月23日、香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官自らが、中国杭州のアリババ本社でジャックマーと階段。

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最後に、少し政治的な視点でアリペイの香港進出を考えてみたい。

ご存知のように中国と香港の関係をめぐっては歴史的に極めて複雑な事情がある。現在も中国人と香港人の関係は決して良いとは言えない。中国人は香港を中国の一部だと考えているが、香港人の一部には長いイギリスの統治下を経験し独自のアイデンティティーを形成し、中国と一線を画したいと考える人たちも多く存在する。

今年7月に就任した香港政府トップである林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、香港生まれの香港大学卒業という経歴の香港育ちではあるが、本籍はアリババの本社がある中国の浙江省にあり、中国本土が推す親中派の政治家である。日本人には理解しがたい香港をめぐる政治問題と、複雑な華僑社会構造が背景にあるように思えてならない。

8月23日に、香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官自らが、中国杭州のアリババ本社を訪れアリババグループの代表であるジャックマーとのトップ会談を行っている。彼女がアリババのジャック・マーと面談し、その後、ジャック・マーは、香港のキャッシュレス社会化に向けてより力を入れると記者発表でコメントしている。

中国政府側としては、香港も中国の一部であるのだからアリペイが中国と同じように香港でも使用できた方が当然都合が良い。今後のアリペイの香港進出の分析に関しては、政治的な視点を交えるとより面白い分析となるのかもしれない。