【アリババニューリテール戦略の全貌】第3回:盒馬鲜生(ファーマーションシェン)は4つの複合体O2Oスーパーマーケット|アリババ

アリババが提唱する「ニューリテール戦略」と言えば、盒馬鲜生(ファーマーシェンション)の説明をしなければならない。スーパーマーケット、レストラン、オンラインショップ、ロジスティックの4つの複合体。現在は上海、北京、寧波で合計13店舗を展開し、アリババの「ニューリテール戦略」の中核である。

  • 盒馬鲜生(ファーマーシェンション)は、アリババの目指す「ニューリテール」を体感できる店舗

アリババは、2016年末にO2O戦略の新しいコンセプトとして「ニューリテール」戦略を発表し世間を驚かせ、2017年を「ニューリテール元年」と命名し知名度を高めている最中である。実はそれ以前から、アリババが実験的にO2O(オンラインtoオフライン)戦略を行なうスーパーマーケットが存在していたのである。その名は盒馬鲜生、ファーマーシェンションと発音する。

第一号店を上海にオープンしたのは、2016年1月15日。店舗の半径5 kmの範囲内に限定して、注文から30分以内でのデリバリーを実現し好評を博している。現在では、上海は10店舗北京2店舗寧波1店舗を開店の合計13店舗を運営し、まだまだ拡大の勢いが止まらない。

 

  • 盒馬鲜生(ファーマーシェンション)のCEOはロジスティックのプロフェッショナル

盒馬鲜生(ファーマーシェンション)の創設者は、京東物流のCEOを勤めていた人物であり2016年3月にアリババから1億5000万USD(日本円で165億円程度)に及ぶ資金調達を行い、現在は事実上のアリババの支配下企業となっている。さて、物流のプロフェッショナルが選んだ戦略は、3キロから5キロ(店舗により多少差異がある)の範囲で、注文から配達完了までを30分で実現するロジスティックを作り上げてしまうことだった。しかも、このロジスティックは他の物流会社に依存するのではなく、自前のロジスティックで作り上げた。社員である専門の配達員に、近隣の道路、混雑する予想時間帯、複数配達をする場合の最短配達ルートの選択などを徹底的に教育した上で、効率的に30分以内の配達出来る仕組みを実現したのである。

そのデリバリー費用は、店舗により多少異なるがオープン後しばらくは購入金額に関係なく無料。開店プロモーション後でも39元程度(日本円で650円程度)の商品を購入すれば、時間指定含めた無料配達が可能となるサービスである。

 

  • 盒馬鲜生(ファーマーシェンション)には4つの顔がある それは、スーパーマーケット、レストラン、オンラインショップに加えロジスティック。

最初に30分以内のデリバリーのことを記載したが、無料宅配だけなら他社でもやろうと思えば追随は可能である。実は、盒馬鲜生の本当の凄さは別の所にある。伝統的なスーパーマーケットと比較して、このスーパーは4つの複合的な側面を併せ持った複合的な店舗コンセプトを有していることが最大の特徴である。

すなわち、盒馬鲜生はスーパーマーケットであり、レストランであり、オンラインショップであり、ロジスティックでもあるのだ。

この点、読者の方にわかりやすく説明するのは、大変困難であるが、買い物客のユーザー視点で、どういったプロセスで買い物を行うかを追いかけながら説明してみたい。

 

  • 買い物の流れ

1、初めて店舗を使用するユーザーは、盒馬鲜生の専用アプリをダウンロードして、アリペイと紐付ける作業が必要となる。アリババ配下企業のためWeChatPayは許されていない。原則として、アリペイを用いたキャッシュレス決済以外の支払いを受け付けていなかったが、開店後に中国政府からの改善要求があり、老人や子供などキャッシュレス決済を使用できないユーザーのために、現金での支払いを受け付けるカウンターも小さく脇に用意されている。

 

2、通常のスーパーマーケットであれば、入り口でカートを入手し、それを押しながら商品の品定めをしつつ、気に入ったものがあればカゴに入れ、最終的にキャッシャーで支払いをするという流れである。

しかし、このスーパーの場合はすべての商品にEタグと呼ばれるQRコードで認証できるタグが添付されており、スマホでスキャンすることで商品や価格を確認できるのは当然として、オンラインサイトへ移動しその商品をオンラインサイトのカゴに入れることも出来る。

つまり、即時にその場で使用したいものは、実際に目の前にあるカートに入れキャッシャーで決済し、急いで受け取る必要がないものは、オンラインサイトのカゴに入れて、オンライン決済すれば、お店側がロジスティック部門を活用して自宅までデリバリーしてくれるという仕組みである。ユーザーは、緊急性のない重いものをあえて自宅まで持ち運ぶ必要もなくなり極めて便利で人気がある。さらに言えば、自宅にいながらアプリで注文すれば、30分後には自宅に品物が届くのである。ここが、オンラインとオフラインの融合の部分であり、同時にロジスティック企業という一面が見えてくる部分である。

 

3、陳列された生鮮品は、野菜、魚介類や肉類を含めてすべての食材がその場で調理を依頼することが出来る。基本的な中国料理ならほぼ指定することが出来る。ユーザーは購入した食材を、店舗内の調理コーナーに持っていき、シェフに食材を渡し、調理法を指定するだけである。あとは、併設のレストランに着席し、料理された料理を待つだけである。この点が、スーパーマーケットとレストランの融合した部分である。また、もしユーザーが調理された食材を気に入って自宅で自ら作りたいと思い立った場合には、スマホを開けてレシピを確認すれば、その動画レシピと同時に必要な食材や調味料の全てが提示され一括注文できる仕組みも整っているという hemaxiansheng dining area食事ができるエリア

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4、店内を見渡してみると、エリアごとにスタッフが端末を持ちながらオンラインでユーザーからの注文を確認しているのがわかる。スタンバイしているスタッフは、自分の担当エリアの食材に関する注文があると、店内の陳列棚から商品を取り出し、特定の袋に入れて、棚の上に流れているベルトコンベアーに積み上げている。

hemaxiansheng belt conveyorベルトコンベアー

ベルトコンベアーから流れた商品は、最終的に箱詰め担当の部署で、同時注文された複数の商材を取りまとめダンボール詰めされ、配達担当に迅速に渡されている。バックヤードの在庫管理スペースは省略され、店舗の棚に全ての在庫が置かれているという。

以上が、盒馬鲜生が併せ持つ、スーパーマーケット、レストラン、オンラインショップ、ロジスティックという四つの顔である。

 

  • 盒馬鲜生の店舗戦略に関して

結論から言えば、現在盒馬鲜生の売上は、伝統的なスーパーマーケットと比較して、延べ床面積あたりで4倍近くまで効率化されているという。通常の店舗が、1平方メートルあたり年間で1.5万元の売り上げを見込むところが、この店舗は5万元を超える売り上げが達成できているという。

出店方針に関しては、通常のスーパーマーケットであれば、人が集まる密集地を選択した方が人の来店が多くなるのは当然であるが、盒馬鲜生の場合は、半径3−5キロのエリアにどれだけの人口が密集しているのかが重要となってくる。だから、あえて一等地に出店する必要はなく、半径を考慮しながら費用対効果を勘案して効果的な立地条件を模索すれば良い。コスト的にも出店の選択の幅も広がるし、店舗も大型化するが必要もなく、2000平方メートルから4000平方メートルあたりの店舗サイズで十分という。

さらに商品構成があるが、食品に関するSKU(最小管理単位 =Stock Keeping Unit)は、5000-6000SKU程度をターゲットとしている。この品数数は、アリババが保有するオンラインショッピングのビックデータを分析した結果であり、人々の通常の食生活を満足させるためのアイテム数がこのレンジで十分だという。hemaxiansheng shelf

つまり、5000-6000SKUの商品を陳列できれば、ユーザーは他店に依存することなく、盒馬鲜生だけで、全ての買い物が完了することを意味する。

オンラインで購入する場合も、ユーザーは盒馬鲜生だけで食料品の全てを調達することが可能となり、もはや複数のオンラインショップで品物を複数回に注文に分けて注文する手間から解放されることを意味している。ユーザー視点から見ても、複数の商品を複数の店舗にオンライン注文して、配達を受け取るのは難儀であり、避けたいのが本音である。

新鮮さと清潔さに関しても、盒馬鲜生は最大限の注意を払っている。野菜に関しては、エージェントを通さずに農家から直接仕入れを毎日行い鮮度を保っている。さらに、通常中国のスーパーでは、野菜をむき出しのままカゴに入れて消費者が好きなだけ素手で選別する量り売りが主流であるが、最近の若い世代はそれを不潔と言って嫌悪感を示す人が増加している。そこで、日本のように、野菜、果物、生肉を事前に100-500G程度のパッケージに詰めてユーザーの手に直接触れないよう清潔度を考慮した陳列を行なっている。

 

 

  • 盒馬鲜生の背後にある強力なサプライチェーンシステム

盒馬鲜生の背後には強力な仕入れの仕組みが構築されている。在庫は、全て店舗の限られた棚のスペースで管理されて倉庫を保有していない。在庫が切れそうなタイミングで常に補充する必要がある。これを迅速に行うための仕組みが、アリババが長年手がけてきたアリババのBtoBプラットホームを活用したサプライチェーンであり、天猫のプラットホームである。それらを活用することによって、迅速な仕入れを実現させている。アリババの購買力は絶大であり、競合他社より競争力のある価格で仕入れを行うことが出来る。例えば、この店舗の売りとなっている魚介類に関しては、他の魚介市馬と比較しても、少なくとも30%程度割安、中には半値程度の販売価格も存在するほど、競争力のある価格を実現させているという。

 

  • 盒馬鲜生のメイン顧客は、若い女性が中心

現在の盒馬鲜生の主なユーザーは、25 ~ 35歳の若い女性達だという。最初は、店舗に数回自ら訪問して品物の安全性や清潔度を確認しながら購入するものの、何度か購入を繰り返した後は、店舗訪問せず自宅からオンラインでの注文をするようになるという。とりわけ大都市に住む若い中国人女性は、比較的裕福な層が多く、価格よりも新鮮さや清潔さという安全性を重視する傾向がある。またこうした女性は仕事に従事しているケースが多く、時間節約のためにオンライン注文だけで自宅まで配達してくれる仕組みが人気となっているようだ。

現在、展開している店舗の売上データからは、オンラインとオフラインの注文比率は半々程度だという。ただし、2016年1月に上海で最初に開店した店舗は既にオンライン比率が7割を超え、時間の経過とともに、オンラインでの注文が増えてくる傾向が示されているという。

 

  • 盒馬鲜生の背後にあるアリババの真の狙いとは?

実は、中国では、インターネットによるオンライン取引が有名であるが、そうは言っても、それは中国全体の商業取引量からすれば、わずか15%に過ぎない。

既に中国では人口ボーナスも終わりを告げ、インターネット人口ボーナスも同時に終わりを迎えている。従来のオンライン取引のパイは飽和状態であり、パイを奪い合っている状況で伸び率も低下している。

既存のインターネット市場ではもはや従来ほどの成長が望めず、アリババは次の成長戦略を考える必要があった。それが「ニューリテール戦略」である。

ここまでお付き合い頂いた読者の方はもうお分かりだと思う。ニューリテール戦略とは、簡単に言えば、従来オフラインとされている85%のオフライン市場をオンラインの世界へ引っ張りこむための戦略なのである。これがアリババの目指すニューリテール戦略の真の狙いだと思われる。ネット企業のアリババからすれば、85%のオフライン市場は、さぞかし美味しいブルーオーシャンに見えているはずである。

アリババは、巨大な資本と今までに積み上げたオンラインでの圧倒的な経験を有している。アリババが保有するオンライン取引に関するビッグデータ、アントフィナンシャルが保有するアリペイの購買履歴とアリペイから導き出された芝麻信用のデータなどを活用すれば、大多数の消費行動と与信に関するデータ分析が可能である。さらに、自らが運営するBtoBプラットフォーム「アリババ」やTmall「天猫」からの商品調達を活用すれば、誰よりも強固で競争力のあるサプライチェーンの仕組みを構築することも容易なはずである。

今後のアリババの「ニューリテール戦略」に関しては、おそらく以下の2つの方向で進むものと思われる。

今回レポートした盒馬鲜生や第2回記事で取り上げたMore Mall(猫茂)など独自ブランドでのO2O店舗の開設

参考記事:【アリババニューリテール戦略の全貌】第2回:新しいショッピングモール「More Mall(猫茂)」2018年4月開業

他のスーパーや第一回記事で取り上げた「天猫维军超市(Tmallスマートコンビニ)」のように、中小企業向けにO2O実現のためのプラットホームを提供:

【アリババニューリテール戦略の全貌】第1回:オンラインとオフラインの融合、これぞ新しい小売「O2Oの最先端」だ。

今後もGlotechtrends(グローバルテクノロジートレンド)として、アリババの「ニューリテール戦略」に関するトレンドをウォッチしていく予定である。